<愛犬・愛猫とずっと一緒に楽しく暮らすための豆知識 70>     今回のテーマは「歯周病について」です

こんにちは。
いぬねこさぷりドクターです。

もくじ
1.歯と健康

2.歯周病原菌の悪性度

3.公衆衛生上のリスク

4.歯石除去

5.日常のお手入れ

 お口の臭い、気になりませんか?
3歳以上のわんちゃんのうち、80パーセント以上が歯周病に罹患していると言われています。
これは、動物病院で遭遇する、最も多い疾患となっています。
歯垢が歯石となるのに、ヒトでは20日かかりますが、犬の場合は3〜5日という短期間しか要しません。
歯周病は、歯周病原菌により引き起こされます。
ヒトの歯周病の原因として、ポルフィロモナス・ジンジバリスという細菌が悪性度が高いと知られていますが、これに対し、犬ではポルフィロモナス・グラエが、主な犬の歯周病原菌と言われています。
この細菌は、偏性嫌気性細菌といって、酸素がある空間では生息できない性質を持っています。そのため、歯と歯茎の隙間にある歯周ポケットや歯垢の中などの酸素の少ないところに住みつきます。そして、毒素を産生することで歯肉炎を引き起こし、歯垢と共に石灰化することで歯石となります。
歯周病は、進行すると、歯根や、歯を支えている歯槽骨という骨まで溶かしてしまい、場合によっては、頬に穴が空いたり、鼻腔まで広がって慢性副鼻腔炎の原因となったり、歯の痛みによる食欲不振などを引き起こしたりします。
この問題は、お口の中だけではおさまりません。

1.歯と健康

・誤嚥性肺炎
歯周病が原因で誤嚥性肺炎になるケースは耳にしたことがあるかもしれません。人間の高齢者にもよく起こる病気ですが、主に食べ物や 唾液が気道に入ることで、口腔内細菌が肺に入り込んで肺炎を引き起こします。食事中や、咳をきっかけに発症することが多く、歯周病があると、このリスクは高まります。
それ以外にも、心臓病や、胆嚢疾患、糖尿病に歯周病が関与していると言われています。

・心臓病
小型犬が高齢になると、心臓病が発症することがあります。特に多いのが、僧帽弁閉鎖不全症という、心臓の弁が閉じきらなくなる病気です。
この病気を持っているわんちゃん、お口の中がとんでもないことになっているケースを高頻度で見かけます。
大阪大学歯学部の研究にて、歯周病により心臓病が発症している可能性が報告されています。
僧帽弁閉鎖不全症は、弁の粘液変性と言って、弁の性状が変化することで弁がうまく閉じなくなります。研究の調査において、僧帽弁閉鎖不全症の犬が保有しているポルフィロモナス・グラエは、線毛の悪性度が高かったのです。
歯磨きの際に、歯肉炎があると歯茎から出血し、ポルフィロモナス・グラエ菌が血流に入り込み、心臓の弁に付着して弁の粘液変性を引き起こしている可能性があるのです。
これと同様に、胆嚢疾患や糖尿病のリスクが歯周病により高まっていると言われています。

2.歯周病原菌の悪性度

歯周病原菌の悪性度を、線毛の遺伝子で悪性度を評価することができます。
うちの子、歯周病になりやすいのか?
気になる場合は、獣医さんで調べてみてもらうのも良いでしょう。

3.公衆衛生上のリスク

ペットと生活しているヒトのうち、16パーセントから、口腔内のポルフィロモナス・グラエが検出されたという報告があります。
ペットの食器の管理や生活スタイル、コミュニケーションにおいて、口腔内細菌の感染が広がってしまうことが容易に想像できます。
特に、小さなお子様のいるご家庭では、わんちゃんの歯周病により、お子様の口腔内の常在菌に影響を及ぼす可能性があります。

4.歯石除去

一度付着した歯石は、全身麻酔下にて歯石除去を実施しなくては、除去できません。
無麻酔スケーリングという広告を目にされたこともあるかと思います。これは、日本小動物歯科研究会が否定しているように、歯周病の治療として誤った方法となります。
2024年6月19日には、【京都府警が無麻酔歯石除去でドッグカフェのオーナーを書類送検】というニュースが配信されました。これは、獣医師の資格を持たないものが無麻酔歯石除去を行うことが、法的に問題があると公的に示されたことになります。
獣医師が実施するとしても、無麻酔では歯石をなんとなく除去できたとしても、本当にケアしなくてはいけない歯周ポケットや、歯面の研磨などを正確に行えず、むしろ歯石の付着しやすい状態のままにしてしまうでしょう。
麻酔下での歯石除去により、寿命が伸びたことが報告されています。もちろん、全身麻酔にリスクがないわけではありません。どんなに若くて健康な子でも、100%の安全が保障されているわけではありません。
特に、歯周病が進行しているのは高齢な子が多いでしょう。近年の麻酔技術は向上しており、高齢というだけでは、麻酔のリスクは高くありません。
腎臓病や心臓病がある場合は、麻酔のリスクが高まります。できれば、病気になる前に、歯石除去を実施してあげる方が良いでしょう。

5.日常のお手入れ

歯周病になる以前からの毎日の歯磨きが、最良の選択です。
人間よりも早く歯石になってしまう犬猫ちゃんたち。毎日のように歯磨きをしないと、歯周病は進行してしまいます。
歯周病になってしまってからでは、歯磨きによる出血で歯周病原菌の体内への侵入に不安を感じます。
幼い頃に歯磨きトレーニングを実施し、ストレスなく歯磨きさせてくれる環境を用意してあげることも大切です。
一度、歯周病により歯茎の痛みを感じると、歯磨きがストレスとなり、2度と口を触らせてくれなくなることもしばしば、、、こういう場合は、獣医さんに歯石除去の相談をしてみましょう。

 

※イラストはイメージです

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